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「信州の山草花」

第8号 「わらび」
2002.06.09

 

「わらび」

 早春の蕗のとう、山菜の王様といわれるたらの芽、栽培ものと一番差のある香り高い山うど等など春の山菜は次々に山の楽しさを届けてくれる。中でもわらびは誰にでも採りやすくまた嫌いな人の少ない山菜の代名詞的な存在である。4月初めの里から始まって近くの低い山へ、そして深く高い山へとゆっくり上って行き、木曾御嶽山(おんたけさん)に達するのは5月末から6月になってしまう。

御嶽山は北アルプスの南端の独立峰で、独立峰としては富士山に継ぐ高さである。高さもさることながら広大な裾野と3076mの剣ヶ峰を主峰に魔利支天(2959m)、継子岳(2859m)、継母岳(2867m)等が外輪山としてどこから見ても分かる特徴のある台形の山頂を有しその山容は巨大である。

御嶽山(おんたけさん)4合目から

冬の御岳 〜遠景〜

197910月突然有史以来の噴火を起こして死火山と休火山の概念見直しの論議を起こし、19989月には長野県西部地震における土泥流の大災害発生など何かと人騒がせな山でもある。

長野県西部地震の王滝村

御嶽山は富士山、白山、大山と並ぶ信仰の山で全国200万人の信者を持つ御岳教の神山である。大宝2年(702年)信濃国司高根道基によって御嶽山頂に御嶽神社奥社が創祀され、774年信濃国司石川望足によって大已貴名命(オオナムチノミコト)、少彦名命(スクナヒコノミコト)の二神を祀って以来修験道の道場として栄え御嶽登拝として全国に広がってきたものである。毎年7月の例大祭りと8月の御神火祭りには4合目にある里宮を中心に大勢の信者が集まって大変な賑わいを見せている。

里宮

信者が御嶽登拝の際に身を清める清滝と新滝に打たれる荒行は真冬の凍りついた滝の中でも行われる壮絶なものである。

清滝

新滝

御嶽山の国道の入り口にあるのが、箱根・碓氷・荒居に並ぶ江戸時代4大関所の一つ福島関のあった福島町である。静かな佇まいの町並みと往時を思い起こさせる関所跡や代官所跡等がその昔の木曽路の繁栄を蘇らせてくれている。

 

わらびは羊歯(しだ)植物で、イノモトソウ科というあまり聞き慣れない科に属する多年草である。学名Pteridium equilium。オオカナワラビ、ヌリワラビ、イヌワラビ、ヤマイネワラビ等ワラビの名を冠した植物は他にもあるが、属する科も別ものである。

まず曲がった首が顔を出し,だんだんに首を伸ばして薄い茶色の握りこぶしのような頭が上を向いてくる。回り一面の薄緑色の中でこの茶色がワラビの存在を離れたところからでも目立たせてくれている。握りこぶしが少しづつ開いて、いつの間にか茶色が消えて羊歯類特有のギザギザした形の葉へと成長してくる。握りこぶしが少し開いた所くらいまでが手でポキンと折れて食べて美味しい時で、その後になると固くなってしまう。

出始めのわらび

だんだん首を伸ばし始めます

アップ

こんなに伸びました

羊歯類特有の胞子による繁殖は秋になって現われてくる。小さい羽のような葉の裏側に胞子嚢群が付き,葉のへりが裏側に折れ返って内側に胞子嚢を包み抱える。やがて胞子を撒き散らし葉は枯れて冬眠に入るのが一年のサイクルである。

成長した姿

わらびのアクは強い。沢山採っていると手が黒くなってくる。このアクはビタミンBを破壊するので食べる時にはアク抜きは欠かせない。万葉の時代から食用として知られアク抜きの方法も藁灰を入れた湯に浸けるのが一般的だが,だんだん稲藁が手に入らなくなってきて重曹(重炭酸ナトリウム)で代用されるようになってきた。わらびの美味しさは少しヌメリのある舌触りにあるが、これは採って余り間を置かなうちにアク抜きをしないと失われてしまうので、スーパーで買ってくるわらびでは残念ながらこの微妙な味わいを楽しむ事は出来ない。

少し時期はずれのたらの芽を見つけた。最盛期はわらびより1ヶ月くらい早いのが普通である。枝の少ない只枯れた棘のある棒が突っ立ている、といったような素っ気無い木だが、その頂上に出てくる芽立ちの美しさは格別である。このたらこそ日本の山菜の王様だと思っていたのだが、先日近くの土産店で袋に入ったたらの塩付けを見つけて産地を見たら中国産とあった。販売元は長野県でこちらの方は大きな字で書いてあった。ねぎ、椎茸だけでなく山菜のたらまでもかと袋を店の棚に戻したのだった。

たら

わらびと御嶽山


次号もお楽しみに!

撮影&解説 y.saito

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